ウサギの胃腸停滞

「私の飼っていたウサギが突然食欲が無くなり、死んでしまいました」という話を良く耳にします。糞がごく小さくなったり、全く排泄されない、または水様性の排泄物が見られることもあります。ウサギの糞には二つのタイプがあります。一方は普通に排泄され、もう一方は柔らかいぶどうの房状の糞(盲腸便)で、ウサギ自身が再び摂取して必要な栄養素を吸収します。盲腸糞が水様あるいは軟便の場合、これは通常盲腸内の細菌・真菌叢のバランスが崩れることから生じます。抗生物質の間違った使用(ペニシリンの経口投与はウサギにとっては致死的状態を招きます)、また繊維質が少なく炭水化物を多く含む餌などの多食により、食物や水分を送り出そうとする腸の蠕動運動が低下して生ずる場合もあります。

 消化管うっ滞の原因

(1)ストレス   (2)脱水   (3)潜在する体調の不良や疾患(消化管内ガスの貯留、臼歯の棘状突起、膀胱疾患、感染症など)による腹痛   (4)腸閉塞   (5)食物繊維の不足(うさぎの餌には干し草を制限無く与える必要があります)。 

ウサギが餌を食べなくなったり、12時間以上糞がみられなければ、それは緊急の状態と考えて下さい。  

胃腸停滞の診断      

胃腸停滞の一つの症状として糞が極めて小さくなったり、全く見られなくなることがあります。また時には柔らかい糞がウサギのお尻にくっついていることもあります。小さな糞のまわりに透明で黄色がかった粘液が覆っていることもあります。胃腸停滞では、正常な時に聞かれるゴロゴロ静かに鳴る腸の音は、非常に大きく荒っぽい音に変わり(消化管が膨張して痛みを伴います)、あるいは全く聞こえなくなります。   

消化管うっ滞と「毛球」に対する誤った認識 

消化管うっ滞に陥ったウサギを「毛球症」と診断されることが極めて多く見られます。実際には毛球が見られてもそれはうっ滞の結果であって、原因ではありません。  

健康なウサギの胃や腸の内容は完全に空になることはありません。ウサギは消化管の機能が停止する直前まで、比較的正常な量の餌を食べていることもあります。そのため、うっ滞が生じた時点で多量の食物が胃の中に残留することもあります。    

 腹部の聴診や触診を行いレントゲン検査を行って、消化管の様々な部分を調べ、正常な摂食物や糞、異物がないかどうか、または消化管内に何も認められないか、ガスが認められるか、などを調べることもあります。 万一閉塞を起こしていた場合、腸蠕動を亢進させる薬を使用すると、閉塞物を狭い場所に押しやって完全な閉塞を招き、状態を悪化させます。  
  
胃腸切開術は閉塞を解除する目的で行われますが、この手術を受けたウサギの生存率は非常に低いものです。この手術に耐えても、術後に腹膜炎やその他の合併症で死亡することもあります。たとえウサギの診療経験が非常に豊富で、熟練した獣医師のもとで看護を受けても、起こりうることです。ウサギでは、消化管の手術は最後の手段としてのみ考えるべきです。    
 
                
1. 機械的治療  
  
A. 腹部のマッサージ
  働きの落ちている腸を刺激して活動を再開させるために最も効果的な方法の一つは、やさしくマッサー ジすることです。ウサギがいやがらなければできるだけ深く揉むようにしかすが、痛がった時はすぐに力をゆるめて下さい。手でマッサージを行った後、電動マッサージ機を試みてもいいでしょう。これは手のマッサージより効果的なようです。マッサージは筋肉を刺激することに加えて、ガス泡を破壊して痛みを和らげる作用もあるようです。ウサギが受け入れて楽しんでいる限り、できるだけ長く、また頻繁にマッサージを行うと良いでしょう。

B. 油性緩下剤 (Laxatone, 鉱油) 
  この緩下剤は消化管運動には影響しませんが、腸蠕動亢進薬と同時に使用されると、水分を吸収されて嵌頓した消化管内用物を押し進める作用を補助します。チューブ入りの香りのついた薬はウサギに好まれます。
 
 
2. 医薬部外品による補助的治療
 
A. 経口補液
 経口補液は、固まってほとんど消化管を通過できなくなった内容物に水分を与えると言う点で重要です。
 水でも十分ですが、甘みをつけてない人間の小児用電解質液のペディアライト(食料品店のベビーフードコーナーにあるでしょう)であればより好ましいでしょう。多量の砂糖が含まれる飲料(ゲータレードも同様です)は与えないでください。これらの飲料は盲腸内での有害な細菌を増殖させることになります。
 
B 制限無く牧草の干し草を与える
 うさぎがチモシーやオーツ麦、ブローム、その他の牧草の干し草を食べない場合は、緊急事態ですのでアルファルファを与えるのもしかたないでしょう(アルファルファは毎日与えるものとしてはタンパク質やカロリー、カルシウムが多すぎます)。もちろんウサギには常に新鮮な牧草の干し草を制限無く与えなければなりません)。と言う点で重要です。
 
浣腸
   きれいなお湯に少量の香りのない鉱油の緩下剤を加え、浣腸を行うことで効果が得られることもあります。2.3kgのウサギで10-15ccの浣腸剤を注入できます。鉱油をお湯によく混ぜます。ウサギを仰向けにして、蹴られないようにしっかり抑えます。注射器の先端を濡らし、注意深く肛門から差し込みます。浣腸剤が吹き出さないようにしばらく肛門を押さえていなければならないこともあります。
こうして浣腸剤が停滞している所までとどきます。これによって、皮下注射の効果がなかった場合でも、下部消化管内で水分を吸収され、硬くなった内容物に水分を与えて柔らかくするのに役立ちます。
 
 
3. 処方薬による治療
 
A. 腸蠕動亢進薬
 閉塞を起こしてないことが診察されれば、シサプリドやレグランなどはうっ滞を起こしている消化管を再び蠕動させる効果が期待できます。これらの薬は共にウサギに用いても安全で効果があります。レグランは上部消化管、シサプリドは主に下部消化管、相乗効果が期待できます。腸閉塞がある場合はこれらの薬は使ってはいけないということは忘れないで下さい。さらに状態を悪化させることになります。
 
B. Cholestryramine (Questran)
 Cholestryramineは主に人間の血中コレステロールを下げるために用いられています。ウサギに粘液質の便が見られたら、Clostridium属の細菌が増殖してウサギを死に至らせる危険性のある毒素を産生していることが考えられます。Cholestryramineはこれらの毒素を吸収し、無害化して糞便中に排泄します。Cholestryramineは多量の水に溶かし、経口的に投与します。重度の腸炎を患った多くのウサギの救命に役立ってきたと思います。
 
 
 C. 乳酸リンゲル液の皮下輸液
  乳酸リンゲル液の皮下輸液は水分の補給だけでなく、電解質バランスも保ちます。触診によって脱水を起こしていないことが明らかでも、乳酸リンゲル液の皮下投与は、消化管内に停留している食物塊に水分を与え、それによってウサギの不快さも和らぎます。脱水状態にあるウサギは疲労感を感じて具合が悪そうに見えるでしょう。このようなとき、ウサギは元気なときのように病気と闘う気力はなくなるものです。消化管うっ滞のウサギは食欲が無くなり、水も飲まなくなります。そのため腎臓または心臓に機能不全がなければ、事前に皮下輸液を行うことも良い考えでしょう。
 
D. ビタミンB複合剤
 経口投与または注射投与により、食欲を刺激します。ウサギには、強制給餌を行ってでもつねに餌を食べ続けさせることが必要です。食欲不振により急速に胃潰瘍や重度の肝臓の変性が生じてきます。
 
E. 抗生物質
 Clostridium属の過剰な増殖に対するフラジールや、二次感染による状態悪化に対して投与するバイトリルなど、うっ滞を起こしているウサギに抗生物質を処方することがあります。不必要な抗生物質の使用は、数多くの薬剤耐性菌を生み出す最も大きな原因となっています。ウサギに感染症の徴候が見られなければ(これがウサギの腸管運動が停止したはじめの原因かも知れません)、本当に必要な場合以外抗生物質は使用してはいけません。

 
4. 痛みの軽減:ウサギが病気と闘う上で大切な処置
 
A. 鎮痛剤
 消化管うっ滞による腹痛を感じているウサギにとって非常に重要です。バナミンは馬用として認可された薬ですが、ウサギにも広く用いられ、非常によい効果が認められています。
 
抗菌剤のサルファ剤と非ステロイド系の抗炎症薬の複合剤であるスルファサラジンを用いて、腹痛と腸炎の軽減に大変良い結果が得られます。スルファサラジンは局所的に作用して腸の炎症を抑えます。痛みを軽減するだけでなく、有害な細菌が産生する毒素も軽減させます。バリウムも痛みを軽減し腸蠕動を刺激することで、腸管運動を回復作用を発揮しますが、その作用は前述した鎮痛剤に比較して緩徐です。
 
 
 
5. 回復の過程:完全に治すことができなくても、無理に治そうとしないで下さい

 消化管うっ滞を起こしているウサギの看護をする場合は、我慢強く治療と投薬の効果を待ち続けることが大切です。ウサギはストレスを受けやすいため、触りすぎることも避けるべきです。
 腸管蠕動亢進薬や治療の効果が現れて消化管運動が正常に戻るまでには2週間あるいはそれ以上かかることもあります。
聴診器でゴロゴロ言う音が聞こえてくるのはよい徴候です。この音が聞こえて来るときは、十分な糞の排泄が見られなくても、ウサギは回復しつつあると考えられます。
 
 
6. 原因
 
 原因となったことについて考えてみて下さい。餌に十分な繊維が含まれてたでしょうか。炭水化物を多く含んだお菓子を与えていませんか。臼歯の過長や歯根膿瘍はありませんか。ウサギが消化管の動きを停止させるほどのストレスのかかる潜在的な感染や疾患がありませんでしたか。
ウサギは消化管にストレスを受けやすい動物です。消化管うっ滞は、ウサギが具合がわるい時には第一に考えるべき疾患です。
 消化管うっ滞から回復過程にあるウサギは、注意深く体温を監視することで、ウサギのホメオスタシスが安定しているかどうかを知ることができます。
 

7. 予防が最善の治療法です

 消化管うっ滞の最良の治療法は起こさないようにすることです。飼育しているウサギには、新鮮な牧草の干し草として十分な食物繊維を与えてください。固形フードは粗繊維含量の多いものを与えます(22%あるいはそれ以上)。十分な飲水を与えて摂取した食物に水分を与え、通過を助けます。
 
こうして正常な腸蠕動が得られれば、あなたの家は健康なウサギが排泄するたくさんの糞でいっぱいになるでしょう。.
 
 
                                          House Rabbit Societyより抜粋